Intel固定倍率の謎


・・それはCeleron-266から・・
Celeron-266・・このCPUはマザーボードの倍率設定を変えても常に4.0倍で起動しました。

それ以前にはPentium2-400と350に倍率プロテクトが採用されていました。
FSB100MHzでは上位の倍率を選択できないが、FSB66では自由に倍率が設定できるもので、FSBが
66から100へ移行する過渡期に、どちらのFSBでも規定のクロックを実現出来るように配慮されていました。
しかしCeleron-266はFSB66のみのサポートであったため、完全に倍率が固定されたのです。
そして、現在のCeleron、Pentium2、Pentium3は完全に倍率が固定されてしまいました。


しかしIntelもPCメーカも、倍率を固定したとは言っていません。
マニュアルにも倍率の設定方法が書かれており、公には従来の(倍率可変の)モノと何ら変わりがありません。
倍率固定は、公然の事実でありながら、公然の秘密でもあるのです。



・・CPUボードを疑え・・
以前のソケットタイプのCPUは全て倍率可変で、これは歩留まりとコストの問題と考えられていました。
同時に製造したものでも、選別により規定クロックを変えて出荷することが可能なわけです。
この考えから、@のコアチップに仕掛けがあるとは考えにくく、コアチップを実装するCPUボードにまず
目が向けられました。


 《仮定1》
  @CPUボード上に固定倍率回路が組まれている。
  ACPUボードとチップの間の見えない所に固定倍率回路が組まれている。
  B多層基盤の見えない面に固定倍率回路が組まれている。


追って発売された、倍率4.5倍のCeleron-300との間に、ボード上の違いは見出せませんでした。
残るはDとEの方法ですが、これを実際に確かめた人がいます。


KIKUMARUさん-Celeron基板解析 http://www.kikumaru.com/
仮定1は崩れました。


・・倍率設定端子は生きていた・・
それでは、一体どのようにして倍率が固定されているのでしょうか。
Pentium2では66/100#の信号の扱い方に秘密がありました。
当時のPentium2とCeleronは同一のコアチップを使っていたため、機能も共通と考えられます。
しかし、Pentium2がいかなる場合でも下位の倍率設定が可能であるのに対し、Celeronでは常に倍率が
固定されており、これはPentium2の機能とは違う仕掛けを採っていると考えた方が良さそうです。
Celeronでは、倍率設定端子の結線自体が異なる可能性があります。


 《仮定2》
  @CPUボードの倍率設定端子はコアチップと結線されず、コアチップには固定の信号を流している。
  ACPUボードの倍率設定端子はコアチップと結線されているが、固定の信号を流している。


これを、ロジックアナライザで確かめた人がいました。これらの端子はコアと結線され、マザーボードからの
倍率設定信号は生きていました。
仮定2は崩れました。


・・もう一つの謎・・
CPU側の仕掛けには、もう一つの謎がありました。
インターネットの掲示板に4.0倍以外に設定出来たとの動作報告が寄せらたことです。
固定倍率が解除される例は主に下記の二点でした。


  @電源On/Offやリセットのタイミングによるもの。
  A特定のマザーボードによるもの。


限られた環境で固定倍率が解除されるといい、しかし100パーセント成功するわけではないというのです。
Aでは、特にDualCPUマザーのセカンドスロット側で固定倍率が外れやすいとの情報もありました。
この事実は、CPUボード上で固定の結線があるとすると説明できません。
倍率を固定するには、二つの条件を満たさなければならなくなりました。


  @固定の倍率設定を持っていること。
  A外部からの倍率設定も有効に出来ること。


倍率が自由に設定できた初期のPentium2(クラマスコア)とCeleron(デュシーツ)の比較すれば
何か手がかりが得られるかも知れません。
まず、両方の倍率設定ピン(BFx)とコアの結線をテスターで探ってみました。


倍率設定

信号

スロット端子

コアチップピン
デュシーツ(倍率固定)

コアチップピン
クラマス(倍率可変)

BF0

LINT[0]/INTR

A17

T28

X30

BF1

IGNNE#

A8

A14

E13

BF2

A20M#

A5

C12

A12

BF3

LINT[1]/NMI

B16

U32

X28


すると、両者は上表の通り、コアチップへの結線が異なっているのです。

 《仮説3》
  クラマスは固定倍率を考慮せずこれが本来の接続。デュシーツは本来のピンは固定結線にし、
  外部BF設定は別のピンに接続し、ある条件で設定を切り換える機能をサポート。
  通常は本来のピン(固定設定)の接続が優先されている。


この仮説のもとにCeleronのX30、E13、A12、X28に当るピンをテスターで調べてみると、
BF2に当たるA15が56ΩでVccに接続されていました。
つまり
倍率4倍(BF3=0、BF2=1、BF1=0、BF0=0)と一致します。

倍率設定一覧

SLOT端子(BFx)

B16(BF3)

A5(BF2)

A8(BF1)

A17(BF0)

倍率

2.0

1

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

7.5

8.0


もし、この仮説が正しければ、X30、E13、A12、X28の結線を変えてやれば、
倍率を設定できることになります。
にわかに期待が高まりましたが、これも追って発売された、倍率4.5倍のCeleron-300との間に
設定の違いが見られませんでした。
もっとも、この仮説は二つの問題をはらんでいます。


@そもそもデュシーツとクラマスではコアチップのピンアサインが異なるのではないか。
 
これは、Intelがコアチップのピンアサインを公表していないため定かではありませんが、
 一般的な見方です。(初期のCeleronの箱の写真は、明らかにクラマスでしたが・・)


ACPUの各信号は単純なHot/Gndではないので、テスターによる調査はできない。
 
以前のBFxはHot/Gndでしたが・・

仮説3は唯一の手がかりではありましたが、立証には至りませんでした。


・・マイクロコードのパッチ・・
現在はCPUボードを使わない、ソケット370タイプのCPUでも倍率が固定されており、
ボード上の仕掛けの可能性はほとんど無くなったと思います。
そして、
CPU側に回路があるとすると、コアチップ内であることが、ほぼ確実になりました。
コアチップ内であれば、歩留まりとコストの問題はどうなるのでしょうか。
専用の倍率を持ったコアを作っていたのでは生産性や在庫管理にも影響があるはずです。


Pentiumのバグ騒ぎに痛い思いをしたIntelは、Pro以降から製造後のCPUにCMOSを持たせ、
マイクロコードにパッチを当てる機能を与えているという情報があります。
この方法であれば、スロットボードに実装した後に倍率を決めることも可能です。
CMOSパッチの情報はPCメーカには知らされているようですが、固定倍率に関わる情報は闇の中です。
しかし、固定倍率の設定はこの方法が限りなくグレーのように思われます。



・・ドキュメント上の手がかり・・
さて、マザーの状態いかんで固定倍率が破られるということは、回路の追加で倍率設定が出来ることを
意味しています。

CPU内部に固定の設定に対して、外部設定を優先させる方法が見つかればよいわけです。
Intelのドキュメントには
、BFxの値とLINT[0]/INTR、IGNNE#、A20M#、LINT[1]/NMIの信号が多重化
されたものがCRESET#信号でラッチされ倍率信号となる
と書かれています。
従来BFxは単純なHot/Gndでしたが、Cerelonでは多重化とラッチが行われるわけです。
この多重化信号のHold timeは、Power-on Reset時とSystem Bus Reset時では異なっています。
System Bus Reset時に外部設定が有効になりやすいことを考えると、この
Hold timeを変えてやることで、
倍率信号が認識される
ようになるという気もします。
これは、マザーボードやCPUのアドオン回路でもできそうですが、成功したという話は無いようです。



・・破られた固定倍率・・
そして、リマークCPUが現れました。
デュシーツコアのPentium2‐266(SL2W7)が、Pentium2-400として売られていたのです。


P2_f4x0_.JPG

四本の配線が小さな回路を中継しRESET#、66/100#、GND、Vddに接続されています。
RESET#信号が関わっていることは、リセット時に固定倍率が解除されやすい事象を裏付けるものです。
66/100#信号の細工は、FSB100に対応させるもので、固定倍率破りには直接関係なさそうです。
これを解析すれば、一般に改造可能となるのは間違いありません。
しかし、リマーク品対策である倍率固定を破ったリマーク品の情報が公開されることは有り得ないのです。


・・・これに関してはYAMADA さんからB21をマスクしただけのリマーク品ではないかという指摘を
頂きました。確かにP2−266とP2−400は共に倍率4.0倍。固定倍率を解除する必要はありません。
このリマーク品は固定倍率を解除していないのかも知れません・・



倍率固定の情報は核心に近いところで、完全に遮断されているのです。


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