Intel固定倍率の謎2


「Intel固定倍率の謎」をアップした後、数人の方からメールで情報を頂きました。
その中で、掲載の了解を頂いた方々の情報を紹介しながら、更に謎に迫ってみたいと思います。



・・マザーボードメーカーのコメント・・

倍率が固定された直後、某メーカに「マザーボード側でプロテクトを打ち破れないものか」と質問した人がいます。

《回答の内容》

・CPU側にプロテクトがあるなら、マザー側で制御することは出来ない。
・ボード側で倍率設定信号を送っても、CPU側でキャンセルするなら、手の打ちようが無い。
・メーカからは、これ以上突っ込んだ回答は出来ない。


この回答で気になることは、「〜なら〜できない」と、いう言い回しです。
回答者が、この時点で事実を把握していたかは定かではありませんが、この言い回しは、逆に考えれば、

「〜でないなら、〜できる」と言っているように思えます。
事実、特定のマザーやリセット操作で倍率が変わったという報告は、相次いだのです・・



・・マイクロコードのパッチ・・

《Aさんからのメール》

ELITEの P6BAT A+ めちゃくちゃ固定倍率 はずれまくりです。
逆に倍率を設定しても、言うことを聞いてくれません。起動するたびに倍率が変わっていたりします。
TESTしたCPUはSLOT1のCele266/300Aです。

いずれにしても、ES品の存在を見てもわかるように、実際には倍率を設定してるのはMB側でしょうね。

CPUは自分の倍率がいくつかという情報を持っていてMBはそれを取得して、マニュアル設定より優先的に
CPU情報の設定を使うのではないでしょか?情報の取得が電源投入直後に行われることから
誤動作するケースもあるのでは?と思ってます。


CPUが内部に倍率設定情報を持っていてそれに従って動くなら動作は確実なはずです。
しかし倍率が固定されていないES品があることから、外部の倍率設定をCPUは認識できるということです。
マザーにより誤動作することがあるのは、マザーがCPUから情報を読み出してCPUに指示し直すために、
不安定要素が増大する為ではないかと言うことです。


この説だと、BIOSレベルの対応で実現可能かも知れません。
固定倍率情報をどのような形でCPU内部に持つかを考えた場合、マイクロコードパッチの応用が最も
現実的とも思われます。つまり、CPU内部の書き換え可能な領域に
固定倍率情報を持つ方法です。
デュアルシステムの2ndスロットで、CeleronをP2と誤認した際にプロテクトが外れるなどの説明も出来そうです。
Celeronを知らない古いBIOSでは、プロテクトが掛かるのでしょうか?


・・ヒューズカット・・

Aさんの説は、一点だけ他の情報と折り合わないことがあります。
以前、倍率設定信号を、ロジックアナライザで確かめた人がいて、マザーボードからの信号がそのまま
出力されているとの報告があることです。つまり、マザーは設定倍率を変えてないことになります。


これは、CPUが持つと思われる固定倍率情報を、固定倍率回路と考えれば説明がつくかも知れません。
そうすれば、BIOSが読み出す必要は無く、
何かをきっかけにCPUが自分で信号を変えることが出来かも
知れません。


《Bさんからのメール》

仮説  ダイ上でクロック倍率の設定がなされている
     スピード選別はダイソート時に行われている
     スピード選別はヒューズカットで設定されている


仮説に至った経緯

1.樹脂基板or樹脂インターポーザ上でクロック倍率を設定する部分がみあたらない

2.クロックごとにマスクが異なることはなく、スピード選別にて対応している事は確実

3.SECC2はダイが樹脂基板にフリップチップ接続されているので、樹脂基板に接続後はダイ本体の
  パターンに手を加えることは不可能


4.Si上のヒューズをレーザでカットする工法は一般的
  メモリでも不良ブロックの切り離しなどで多用されている


5.ダイシング後にダイ単体でテスト選別する事は、量産化の観点から効率的でない

6.ダイソート中or後にウェーハ状態でスピード選別を行い、ヒューズカットで設定されている可能性大

*注*
  ダイ:Siのチップ本体の事
  ダイソート:ウェーハ状態で電気特性をテストする工程
  ヒューズカット:パターンを切断すること。
  フリップチップ:ダイが背中をむけた状態での半導体アセンブリ技術
  ダイシング:ウェーハを切断し、1チップごとに分離する工程


このメールは正直言って驚きました。ウェーハ状態でスピード選別が出来るとは!
この点につき更に伺ったところ、具体的なお返事が頂けました。


数百MHzのスピード選別が確実できるほどダイソートでは高精度な測定ができません。
ダイソートはダイ上のアルミパッド(今後はCuの場合もありうる)に針を接触させてテストします。
もちろん、針からテスタ本体までは厳重にシールドされた同軸ケーブルで接続されていますが、
針での接触というのは信号の減衰や反射(ノイズ)の大きな原因になります。


これは完全に想像ですが、この様な背景からスピード選別はかなりマージンを高く見積もって行って
いるのではないでしょうか?


わたしの実感ですが、倍率が固定された後のIntelCPUは、同一時期に投入されたCPUが、
ほとんどラインナップの最上位のクロックで動作しています。
初期のP3-450、P-500が500MHzオーバーで動作し、最近のP3-450、P3-500、P3-550、P3-600が
600MHzオーバーで動作する・・
ひょっとしたら、スピード選択すらしてないのではないかとも思えますが、それはありえないようです。


高速系の半導体のコストでもっとも大きなコストは、バーンイン(エージング)からテスト工程です。
そのコストを削減するためには、不良は早いうちからはじくのが一番効率的です。



・・ただ一つの可能性・・

CPU内部に固定倍率の仕掛けを持つことは、まず間違いありません。

マイクロコードパッチの流用・固定倍率情報説では、マザーが倍率設定情報、CPUから読み出し、
設定信号としてCPUに送る必要がありますが、マザーの倍率設定信号は設定値がそのまま出力されている
との情報と折り合いがつきません。
回路自体を変更するヒューズカットでは、
何らかのきっかけを流用して、倍率設定信号を生成することが
可能なように思えます。


つまりこうです。

CPU内部にヒューズカットで設定された倍率設定回路を持ち、マザーからの何らかの信号を流用して、
マザーからの倍率設定信号より先に、内部の設定情報を設定信号として倍率を決定してしまう。


先回りして倍率を設定してしまえば、マザーの設定は無効になります。
また、CPU側がきっかけとなる仕様を公開しなければ、マザー側でコントロールすることは現実的に出来ません。
こう考えると、初めの某メーカの回答が、事実を説明しているように思えてきます。



・・プロテクトの進化・・

初期のプロテクトはネットの情報では、かなり不安定なものに思えました。
それは、大きく異なる環境において、微妙な信号・・例えば時間差・・をきっかけに倍率をすり替えていたと
考えられます。


初期には、CPUボード面の結露でプロテクトが外れたという情報があり、単にある信号をGND(または逆)
することで切り替えていたことを暗示します。
その後発見されたリマーク品では、
四本の配線が小さな回路を中継しRESET#、66/100#、GND、Vddに接続
されており、プロテクトが進化したことを示しています。
そして、P3では未だ倍率変更の情報が無いうちにカッパーマインに世代交代しようとしています・・


固定倍率の仕掛けはほぼ特定出来たと思います。
しかし、実際どうすればプロテクトを解除することが出来るかという謎解きは、いつまでもついて回るような気がします。
もはや、P2リマーク品を解析しても、応用は出来ないと思えるのです。



・・最後に・・


Intelのプロテクトは、リマーク品とのいたちごっこで絶えずきっかけ信号を変更しているように思えます。
けっして、一部オーバークロッカーの楽しみを奪うために苦心して隠しているいるわけではないでしょう。
もし、信号線が見つかったら、こっそり楽しむのが賢明かも知れません。
でも、見つけた方がありましたら、わたしにもこっそり教えてくださいね(^^;



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